アフィリエイトセミナーやSEOセミナーに行かなくなって久しいですね。
代わりにどういう勉強会に参加しているかと言うと、隣接業種の方が集まる場であることが多いです。
例えばWeb制作業者、編集者、ライター、イラストレーター、デザイナー、通販業者、企業のマーケティング担当者、といった具合ですね。最近は特に広告主向けのアフィリエイト活用セミナーに行くことが増えた感じ。あとはマネジメントや法律の実務系セミナーでしょうか。
今回は校正・校閲に関する勉強会に参加してきました。
Webメディアは一般的に、紙媒体に比べて文章のレベルは低い。このことに異論を唱える方はそれほど多くないでしょう。
速報性やカジュアル感をメディアの特性や長所として捉えることは勿論できます。しかし商用媒体であっても明らかな誤記・誤用が見られる場合が少なくないのが現状であり、「これ誰かのチェックを受けてから公開してるのかなあ・・・」と心配になることがあります。
当ブログのように個人のサイトなら誤用だろうが偏見からくる炎上だろうが好き勝手にすればいいのですが、「クライアントから依頼を受けて制作する企画記事が個人ブログと同レベルの品質チェックでいいのか?」という疑問は常に頭にありました。
私も外注ライターさんと関わりながら編集業務を行う手前、基本的な校正の知識は身につけなければと考えていますし、自分の感覚に頼る以外のクオリティチェックを行う必要性も感じています。でないと原稿のチェックを全て自分がやらなければいけなくなり、業務量が増えるとリソースが逼迫するからです。
で、その辺のことを知りたくて校正を専門とする会社・鴎来堂の柳下恭平社長の勉強会に参加してお話を伺ってきましたので、その要点をメモしておきますね。
この記事の主な内容
校正は専門家に任せるべきだが、リソースがない場合は・・・?
私が柳下さんのことを知ったのは漫画「重版出来!」の6巻で出てくる校正会社のエピソードです。
巻末のおまけ漫画で、実在の人物をモデルにしたことが描かれており、そこにお名前が出ていました。なるほどこういった会社があるのか…とその時は記憶にとどめた程度でしたが、今回はその柳下さんが講演されるということで参加を即決しました。
「重版出来!」6巻より ©松田奈緒子2015
90分ほどのお話を聞いていて分かったことをかいつまんで申し上げると、校正・校閲というのは熟練したマニアックな職人による技術であり、10年たってようやく一人前。編集者が兼務しようとするのはあまりに時間対効果が低い。
「中途半端に校正の技術を習得するよりも、編集なら編集の、ライターならライターの素養や技術を磨き、まずその道のスキルに熟達するほうが望ましい」というのが柳下さんのお話で、深く納得させられました。
とは言え多くのWebメディア、特に個人でアフィリエイトサイトをやっているような方は、社内に専任の校正担当者を置く余裕などありませんし、こういった業者へ委託するのも敷居が高く感じるかもしれません。私もそうです。
そこで現実的な環境を鑑み、編集者兼ライターが一人で企画・制作・運用を兼任しなければいけない時に、特にどういった点に注意すればいいのか?という点でアドバイスを頂きました。
素人が基本的な校正の真似をするにはどうしたらいいか? ①単純な誤記誤用がないか着目してクリアリングする |
柳下さんが仰るには、この3プロセスを経ればとりあえず大事故は避けられるのではないかと。
この時のポイントは、通読しながらマルチタスクとして一度にやらず、①②③を別工程として頭を切り替え、シングルタスクで行うことだそうです。
誤字脱字のチェックはシングルタスクで!
シングルタスクとはどういうことか。
例えば誤字脱字のチェックならば、誤字脱字だけに注目して「文字列を見る」。文意を捉えながら読書してはダメ。
人間の脳は文字の塊から意味を補完してしまうので、「読書」してしまうと単純な表記の間違いに気づかないのだそう。例としていくつか出されていましたが、そのうちのひとつがJRのロゴでした。
これは実際のJR東日本のロゴです。普通に読めますね。
実はこの中に普通ではない箇所があるのですが・・・と言われて、じーっと見てようやく気が付きました。
どこか分かりましたか?
鉄道の「鉄」の字が普通の字体ではなく、作字されています。
鉄という字は金を失うと書くので縁起が悪いとか、電車が矢のように速く運行するからとか何とか、一応いわれがあるようですが、いずれにせよ普通の字ではないわけです。ただ私達の頭には先入観があって、「はいはい、鉄道のロゴね」と思ってしまった瞬間に脳がそれを補ってしまう。
これを見て私は何年か前に2chで流行ったコピペを思い出しました。こんなやつです。
こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です。 この ぶんょしう は いりぎす の ケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか にんんげ は もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす。 どでうす? ちんゃと よゃちめう でしょ? ちんゃと よためら はのんう よしろく |
確かに、文としてはデタラメなのに読めてしまうんですよね。脳が簡単に騙されてしまうということが分かります。
ですから校正業務では、一文字を一文字として「見る」ために定規などで次の文字を隠し、意味を持ったカタマリとして認識しないようにするそうです。
このように意味を考えながら読書していると誤字脱字には気が付きにくい。誤字のチェックと意味のチェックはプロセスを分けた方が正確性が増すというのが「シングルタスクでやれ」というお話の意味するところでした。
私はこれまで納品する記事のチェックは「音読する」「時間を置いてもういちど音読する」「印刷して音読する」という三段階音読方式で行ってきましたが、「読む」だけでは不十分なんですね。大変勉強になります。
アフィリエイトメディアが校正の予算を組む意味
出版社であれば校正というプロセスは最初から織込済なんでしょうけども、Webオンリーのメディアでまともに校正してるなんて聞いたことがありません。ヤフーとかそういう規模の大手だけなんじゃないでしょうか。
それに輪をかけて酷いのが我らのアフィリエイト業界で、載っている情報の出所や正誤すら怪しい。素人ブロガーが書いたコタツ記事をノーチェックで公開してたら当然そうなりますよねっていう話なんですが、クライアント側も最近は割と神経尖らせてますし、実際にトラブルになった事例を頻繁に耳にします。
弊社は医薬系のサイトを中心に活動していて、必ず医師やクライアントの監修を受け、怪しい所は直してから公開しています。リテラシーの元に体制組んでやってますよ、と媒体資料にも載せて他社との差別ポイントにしています。
「ウチはクライアントに医学的エビデンスや業法に関わるチェックを受け、加えて校正業者に依頼して万全の体制でコンテンツ制作をしています」とアピールできれば、現状そこまで細やかに配慮してやっているアフィリエイトメディアは極少数と思われますので、大手クライアント向けの営業が多少はやりやすくなるでしょう。
広告記事の見積もりにもちゃんと「校正料」を入れ、鴎来堂さんに依頼して表現のチェックを受ければOK。小規模メディアでも対応してくれるそうです。
そうやってクライアントに対して「炎上防止のためにweb記事もちゃんと校正するのが常識でしょ(だから予算出してね♪)」という風潮を作っていくことが大切だと思います。
自浄されないままデタラメ情報満載のサイトが氾濫し、そういったサイトがユーザーエクスペリエンスを損なうと判断された場合、Googleなり当局なりが大なた振るって規制に乗り出すなんていう最悪の未来を招きかねませんからね。
委託料金は現実的な予算から作業範囲を指定できる
弊社を含めて、校正業務を外部委託なんてやったことないよ、という方がほとんどだと思います。予算はどんくらいかかるんじゃい。
鴎来堂さんの料金についてお尋ねしたところ、web媒体でカツカツなのであれば先に予算を決めて、コンテンツで特に何が心配なのか優先順位を決め、予算の中でどこまでできるか?というオーダーが可能と言われました。料金表の松竹梅から選んでね、というわけではなさそうです。
もちろん社内基準として1時間あたりの単価は決まっており、業務量と工数から作業時間を割り出して時間単価で計算するそうですが、柳下さんの様子を見ていると想像しているよりも安そうな手応えでした…。
もちろん「サテライトサイトのペラ記事500本の誤字チェック」みたいな発注しても割にあわないと思いますが、LP、取材記事、タイアップ記事といった、記事自体に予算がついているような場合や、オウンドメディアやSNSの運営を受託するようなケースでは十分採算がとれるように感じます。誤字脱字はセルフでやるにしても、意図せぬ不快表現による炎上が防げるだけでも十分じゃないでしょうか。
勉強会に参加する前は、校正会社は大手出版社や広告代理店をメイン顧客としたBtoBビジネスで、我々零細メディアでは手が届かない世界なのかな?と思っていました。
しかし「校正って儲かるんですか?」という質問に対し、明確な数字ではないものの「校正者1人で主婦と子供2人を養うのは厳しい」「トップレベルの校正者が年収1500万を狙えるように業界を健全化したい」といったお答えでしたので、現状はそれほど給与水準が高い仕事ではなく、世間一般に仕事の価値が浸透していない、予算の優先順位が低い位置に置かれてしまっていると推察されます。
ロクに仕事せず右から左に案件を丸投げして平気で中抜きするようなボンクラ広告代理店は絶滅して欲しいと私は常々思っていて、その陰で真面目にコツコツお仕事されている職人さんが産業の下流に位置し高待遇を得られないのは構造的になんとかしたいものです。(もちろん広告代理店も千差万別で、素晴らしい会社もたくさんありますよ!)
真面目にコツコツやってるから偉い、と言いたいわけではないんですが、真面目で欲張らずお人よしなタイプは一般的に商売下手で、私のような小狡い相手にいいように転がされてるケースが多く、サービス価値に対してなんでそんなに買い叩かれてるんだ!?と憤りを感じることもありますからね。もっと広く必要性や付加価値のアピールをすべきじゃないかな…とは感じました。余計なお世話かもしれませんけども、業界トップレベルのプレイヤーが独立して1500万って夢がなさすぎる。
勉強会を開いて柳下さんを講師にお招きしたい
他にも細かいノウハウはたくさん教えていただきましたが、わずか90分しかなく本当に概論といった感じで終わってしまったため、もっと実務に即したお話をうかがいたいと強く思いました。それも紙媒体やマスメディアではなく、Webの小規模メディアに特化した内容で。
鴎来堂さんのサイトをみるとオーダーメイドの研修も行っているようで、地方の勉強会も定期的に開催されていますから、校正という文化の普及にも熱心に活動されているのでしょう。柳下さんにお尋ねしたところ、営業窓口を通して研修依頼してもらえればいつでも行きますよ、と仰っていただけました。
その場でお金の話はできませんでしたが、サイトに載っている地方勉強会は@8,000×30名で自社開催されているようですから、売上がMAXで24万円。そこから会場費、講師とアシスタントの交通費、教材費等を差し引くと…アゴアシ別の講演料15万円くらいならお願いできるかもしれません。
こういった文章のクオリティアップを気にするレベルの方であればセミナー代金は多少高くても問題ないと思いますので、満足度を高めるために少人数制にしたいですね。都内開催、@4万円×6名、もしくは@3万円×8名がいいかな? この人数なら知り合いのメディアさんにお声だけするだけですぐ埋まりそう。
一般論ではなく我々の業態に的を絞った研修を企画して、ぜひお話いただきたいと考えています。開催告知はしないと思うので、もし参加したい方がいらっしゃればお声がけ下さいね。